お知らせ

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希望を創りだす人( 1 / 7 第3学期始業式より)
いよいよ平和の祭典
今年のお正月は暖かい晴れの日がつづいて、いよいよ始まった2020年、東京オリンピック・パラリンピックの年がやってきました。東京のあちこちの街並みが整備されて、世界中から多くの人がやってくる、スポーツによる平和の祭典である東京オリンピックですが、今回で2回目、公式記録では3回目になるそうです。
最初に記録されている東京オリンピックは1940年(第12回)ですが、このときは戦争のために中止されてしまいました。1964年(第18回)が実際に開催された前回の東京オリンピックです。敗戦の挫折の中にあった日本が、わずか19年で実現したアジアで初のオリンピック大会でした。そして今回の2020年(第32回)となるわけです。
前回の東京オリンピックが開催されたのは1964年ですから、今から56年前のことです。その年に新幹線が走り始め、首都高速もできました。そして何と言ってもその年以降に、日本の一般国民が自由に海外に行けるようになりました。そこで、本校では代表生徒を海外に派遣する制度を始め、現在の国際教育につながっています。
今回のオリンピックは、東北大震災からの復興もテーマに掲げて始まった国家的なプロジェクトですが、206カ国もの参加国の中には、長い間、紛争や戦争が相次いでいるような国もあります。たとえば、アフガニスタン、イラクなどですが、厳しい現状の中から参加してくれるアスリートには思わず応援したくなります。
希望を創りだす人
ところで実は、そのような紛争や戦争が絶えない国々で、国の復興に貢献している日本人のことも忘れたくありません。とくにアフガニスタンという日本人には馴染みの少ない国に、医療活動をするために派遣されて、30年もの間貢献していた中村哲先生が、昨年の暮れにテロリストに攻撃されて亡くなったニュースが世界中を駆けめぐりました。
中村先生は、子供の頃、虫や蝶の観察が好きだったので、本当はファーブル先生のような昆虫の研究生活をするのが夢でした。そのため、とりあえず医学部に進んでから農学部に転学しようと考えていたようです。医師になってからアフガニスタン方面に行くようになったのも、モンシロチョウの原生地に出会えると思ったからだそうです。
ところが、もちろん医療活動を通して現地の人々の命を助ける活動を精力的にしていたのですが、一生懸命に医療活動をしても飢えや渇きは薬では治せない。何より食糧や飲み水がないのですぐに亡くなってしまうというのです。そこで、農業をできるようにしなければと思い、井戸を掘り、農地に水を引く大規模な工事を自らの手で行いました。
中村先生は、農地があっという間に砂漠化する自然災害は、単なる経済援助や戦争行為では解決できないと啓蒙しました。10年以上かけて完成した水路の全長は27キロメートル、65万人もの農民に水を届け、生きる希望を実現したところで、テロに遭ってしまいました。アフガニスタンだけでなく世界中の人々から惜しまれたのは当然です。
希望のつくり方は
さて、今日は先に東京オリンピック・パラリンピックや中村哲先生の話をしましたが、実は、このような戦争や紛争の中にある国や社会の復興を成し遂げようとするような大きな希望、そして私たち一人一人の希望はどうすれば生まれるのかということを、最後に考えておきたいのです。
「希望学」という学問を研究している東大の玄田有史(げんだゆうじ)先生によると、希望のつくりかたには、4つのことが大事だと言います。1つめは強い「気持ち」wishです。オリンピック選手が「最後は気持ちの問題、技術がどうのこうのでなく勝つか負けるかだ。」というようなこと。
2つ目は、あなたにとっての大切な「何か」somethingです。将来、こうありたい。ああなってほしいという、何か具体的なこと。世界平和でも、毎日三回ご飯が食べられるということでも良いが、自分がなんとかしたいということを見定めることだと言います。なんでもいいからなんとかなってほしいというのは、大体なんともならない。
3つ目は、come trueで「実現」です。どうすれば実現する方向に近づいていくのか、その道筋とか、踏むべき段取りを考えるということ。そうすればたとえ実現できなくても近づくことはできる。そして最後の4つ目は、「行動」actionです。行動を起こさない限り、状況を変えることはできない。
失敗や挫折も大事
あらためて希望をつくるために必要な4つ、「気持ち」「具体的何か」「実現」「行動」についてまとめて言えば、希望とは行動によって何かを実現しようとする気持ちです。英語にしてみると、Hope is a Wish for Something to Come True.ということになると言うわけです。
そして、もう一つ大事なことを付け加えると、失敗や挫折を経験して克服した人ほど、希望や仕事にやりがいを持っているということも、研究結果から分かっているそうです。おそらくオリンピックに出場するすべてのアスリートも、アフガニスタンで30年も奮闘した中村医師も、何度も失敗や挫折にあったことでしょう。
しかし、その結果として世界に希望を与える偉業を成し遂げていることも間違いありません。とくにこれからの大学受験を控えている高三の皆さん、たとえ失敗や挫折があっても、それは決して無駄ではなく、むしろそれらを乗り越えてこそ、将来の大きな希望や成功につながることをしっかり受け止めてもらいたいと思います。